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LaTeX メモ - ディラックの記法と cases 環境

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先日の記事 ( 上極限の記法 (LaTeX) ) に引き続き,LaTeX の使い方についてメモしておきたい. ディラックの記法 量子力学で,量子の状態や内積を表現するために便利なディラックの記法(ブラケット記法, Bra-ket_notation ) というものがある.LaTeX でこの記法を使おうとするとき,ケットベクトルやブラベクトルはそれぞれ \left|\varphi\right\rangle , \left\langle\psi\right| と簡単に書けるのだが,ブラケット(内積)がうまくいかなかった.たとえば, \left\langle\varphi|\frac{\psi}{a}\right\rangle などとやっても,中の「|」の高さが調節されない(図1参照). 図1 「|」の高さを式全体の高さに合わせるのは難しく,いろいろと試行錯誤していたのだが,最近 braket.sty というスタイルファイルがあることを知った (「bracket」ではなく「braket」であることに注意されたい).私のシステムでは, $TEXMF/tex/latex/misc/braket.sty にインストールされていた. このスタイルファイルでは, \bra{ } , \ket{ } , \braket{ } , \Bra{ } , \Ket{ }  などのコマンドが用意されているが,特に嬉しいのが \Braket{ } である.これを使って \Braket{\varphi|\frac{\psi}{a}} とすれば,きれいに出力される(図2参照).何より, \left , \right などを使うよりも簡単に書けることが素晴しい.また, \Braket{\varphi|\frac{A}{a}|\psi} などもうまくいく(図3参照).なお,これらのコマンドを使う際には \usepackage{braket} しておくのを忘れずに. 図2 図3 cases 環境 ある数式が条件に応じて異なる値をとることを表現したいことがよくある.このために私はLaTeXの数式モードで array 環境を使い,たとえば以下のように書いていた. \begin{equation}   \chi_E(\omega) = \left\{    ...

滞独日記 (「量子力学と私」所収,朝永振一郎)

以前,「 数学者の言葉では (藤原正彦) 」というエントリにも書いたのだが,大学院生だった一時期,いろいろと研究者のエッセイなどを読み漁ったことがあった.その中でも,朝永振一郎の「量子力学と私」(岩波文庫)は強く印象に残っている. 朝永振一郎は,湯川秀樹と同期の物理学者で,くりこみ理論等の業績によりノーベル物理学賞を受賞した.本書「量子力学と私」は,江沢洋の編集による朝永振一郎の著作集である.内容は,肩の凝らないエッセイから,専門家を対象としたある程度の知識を必要とする解説論文に至るまで,バラエティに富んだものとなっている.特に,「光子の裁判」という短編は,裁判の形で量子の性質を語ろうとするものであり(「光子」は「こうし」であり「みつこ」である),著者の洒脱な性格を表す表すものとして興味深い.だが,このエントリでは,本書所収の「滞独日記(抄)」について書いてみたい. 滞独日記は,朝永が1937年から1939年にドイツに留学した際の日記である.ハイゼンベルクのもとで研究を行っていた朝永は,湯川の理論に整合する実験結果が得られないことから,その問題を解消すべく計算を行い,理論を組み立てようとする.だが,それは決して容易な道のりではなかった.滞独日記には,この朝永の苦悩があまりにも生々しい形で記されている. 1938年  11月17日 朝からいんうつな天気.湯川から第四の論文がくる.坂田,小林,武谷と四人共同のである.これを見てまたゆううつになる.そして,ゆううつになるなどこういうことをもう何回くりかえしているかと思う.それから計算にかかるがうまくいかない. 11月18日 ゆうべは二時間ぐらいしかねていないので一日中,あたまがふらふらしている.少し数値の計算やって,実けんのデータをいじくってばかりいる.実けん結果が人によってみなちがうのだからどれがほんとか判らないので困る. 12月6日 … うちからてがみがくる.からだが第一だからあせって無理しないように,行きづまりなどはだれにでもあるのだから,思いつめないで,旅行したり,何なら,音楽でもやって気をはらすよう,幸い仁科さんも親切に言って下さるのだからとおふくろがかいている.無能な男でも役立たずでも,一人の人間と考えてとりあつかってくれるのはやはり肉親だけだ.能力も才能もなにもかにもとりさっての人間関係はここにあった...