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酒虫 (芥川龍之介)

この季節はとにかく暑くて湿度が高く,一年を通じて最も嫌な時期である.外出すると,息をするのも苦しいような暑さと湿度のため耐えられないような気分になり,さらに,汗でシャツがじっとりとしてくると,それがまた不快さを増大させていく. こういった暑い日によく思い出す小説が芥川龍之介の「酒虫(しゅちゅう)」という短編小説であり,今回のエントリでは,それについて書いてみたい. この小説は,もともと,聊斎志異の中にあるエピソードに基づいているという.芥川の酒虫では,昔の中国の或る地方の素封家である,劉が主人公となっている.劉は,人並みはずれた酒豪でもあった.あるとき,この劉の元に,西域から来た一人の僧が訪れる.その僧は,劉がいくら酒を飲んでも酔わないのは,病のせいであるという.そして,その病は,劉の腹中に住んでいる,「酒虫」を取り除かないと治らないというのであった. 劉は,その僧に,酒虫を取り除くよう依頼する.僧は,劉を炎天下の打麦場で裸にして寝転ばせ,動けないよう細引きでぐるぐる巻きにした.そして,酒を入れた素焼の瓶を,劉の枕元に置いた. 暑い.額へ汗がじりじりと湧いてきて,それが玉になったかと思うと,つうっと生暖たかく,眼のほうへ流れてくる.あいにく,細引でしばられているから,手を出して拭うわけには,もちろんいかない.(中略)そのうちに,汗は遠慮なく,まぶたをぬらして,鼻の側から口もとをまわりながら、あごの下まで流れていく.気味が悪いことおびただしい. (中略)―― そのうちに,のどが渇いてきた.(中略)あごを動かして見たり,舌を噛んで見たりしたが,口のうちは依然として熱を持っている.それも,枕もとの素焼の瓶がなかったら,まだ幾分でも,我慢がしやすかったのに違いない.ところが,瓶の口からは、芬々(ふんぷん)たる酒香が,間断なく,劉の鼻を襲ってくる. これでどうして劉の体内にある酒虫を取り除くことができるのか,慧眼なる読者の皆様は気づかれるのではないだろうか.詳しくは,実際の短編を参照されたい. この短編が印象に残っている理由の一つとしては,体の中にある,悪いものがごろっと出てくるような,一種の爽快感があることがあげられるだろう.尾篭なたとえで恐縮だが,排便時の快感に通じるものがあるかもしれない.すなわち,人間の,本能的な快感に訴えかける話とも思われる.筒井康隆に,薬菜飯店とい