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LaTeX メモ: Emacs 28.1 以降のバージョンにおける AUCTeX の設定

最近 PC を新調したとき、emacs の設定変更が必要になったことがあった。取り急ぎ、AUCTeX まわりに限定してここに記録しておきたい。ここで、emacs と AUCTeX については、Emacs 28.1(現時点での最新バージョンは 28.2), AUCTeX 13.1.4 にアップグレードした。 その後、AUCTeX で LaTeX ファイルを C-c C-c しようとすると、 Latex: problems after [0] pages というエラーが出て、コンパイルに失敗する。具体的には、以下のような症状である。 auctex - Emacs gives me  " Latex: problems after [0] pages "  - TeX - LaTeX Stack Exchange https://tex.stackexchange.com/questions/232273/emacs-gives-me-latex-problems-after-0-pages その解決策は、上記ページを参考にして、 (add-hook 'LaTeX-mode-hook   (lambda ()      (add-to-list 'TeX-expand-list               (list "%(extraopts)" (lambda nil TeX-command-extra-options))))) という一文を、.emacs.el などの初期化ファイルに書いておけばよい。以上。 … ということでエントリが終わってもいいのだが、emacs の初期化についても多少調べたことがあるので、ついでにメモしておきたい。 emacs の初期化ファイル(ここでは .emacs とする)に上記のような設定変更を行い、いつものようにバイトコンパイルした。すると、28.1 からは、以下のような warning が出るようになったのである(ここでは私のホームディレクトリを " /home/taro/ " とした): Warning (comp): Cannot look-up eln file as no source file was...

LaTeX メモ ― AUCTeX 入門(その3)

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(その1) から始まった本ブログの AUCTeX 入門トリロジーも、これが最後のエントリである。このエントリでは、AUCTeX の preview 機能をテーマにしたい。 と言っても、 (その2) までの設定が終われば AUCTeX から外部ビューワを起動できるようになるし、そもそも特に設定することなく、 doc-view を使えば emacs で ps, dvi, pdf などを見ることができる(LibreOffice をインストールしていれば、Office ファイルを読むこともできるようだ)。したがって、AUCTeX のプレビュー機能の必要性はそれほど高くないかもしれない。 しかしながら、AUCTeX のプレビューは有用であるし、私も好きな機能でもある。そこで、今回はもう改めて書くほどの内容はないが、エントリにしてみたい。なお、 (その1) と同様、本エントリの内容は GNU Emacs 26.1, AUCTeX 12.2.0, TeX Live 2019 で試した。さらに、以下では、 (その1) と (その2) で述べた設定は行っているものと仮定する。 プレビュー LaTeX は、Word のような WYSIWYG なツールと異なり、現在の編集の効果を把握しづらい。しかし、ソースとなる tex ファイルから、複数のファイルやツールを用いて最終的な pdf を作成し、編集結果を確認するのというのも手間と時間がかかる。そこで便利なのが、AUCTeX の preview 機能である。 AUCTeX の preview については、論より証拠で以下のスクリーンショットを見れば分かりやすいだろう。 このスクリーンショットは、以下のファイル: sample.tex を、AUCTeX で C-c C-p C-d ( M-x preview-document ) することによって得られたものである。ただし、画像ファイル ` Ghostscript_Tiger.eps ' は配布しないので、各自適当なファイルで試されたい。この画像自体は有名なので、それを入手して eps にするのも簡単である。 そして、preview されたドキュメントを元に戻すには、 C-c C-p C-c C-d ( M-x preview-clearout-document ) とすればよい...

LaTeX メモ ― AUCTeX 入門(その2)

本エントリは、 (その1) に続くエントリである。 大まかに言うと、 (その1) は、AUCTeX 入門のいわば基礎編であったが、それに続く本エントリと 次回エントリ は、入門の応用編に位置づけられる。より具体的には、本エントリは、AUCTeX における platex や dvipdfmx などのコマンド実行の解説で、 次回のエントリ は、プレビュー機能の解説となる。 なお、 (その1) と同様、本エントリの内容は GNU Emacs 26.1, AUCTeX 12.2.0, TeX Live 2019 で試した。他のいくつかのバージョンでも試したので、それについても簡単に述べる。 また、本エントリの実行環境は、 (その1) と異なり、主に Windows を想定する。これは必然性はなく、単に私が今回の内容を Windows で試したから、くらいの理由しかない。他の環境でも、以下の内容をほとんど修正することなく適用できると思われる。 コマンド実行 LaTeXでは、ソースとなる tex ファイルに対し、 latex , bibtex , dvipdfmx などのツールを用いて最終的な pdf が作成される。また、この pdf をさまざまな viewer を用いて閲覧できる。AUCTeX では、これらの複数のツールはすべて、マスターとなるコマンド C-c C-c によって実行できる ( M-x TeX-command-master )。なお、言うまでもなく、これらのツールは端末から直接実行してもよい( その1 参照)。 C-c C-c による実行の概要を、 circ.tex ( その1 を参照)を例にして考えよう。Emacs で AUCTeX モード(その1で書いた内容のみ設定されているとする)で circ.tex を読み込み、 C-c C-c とタイプする。このとき、dvi や pdf が作成されてない最初の段階では、「 Command (default LaTeX): 」というプロンプトが出てくるので、RET を押す。今の状況では、LaTeX ファイルには pdflatex が実行されるはずである(なお、上記プロンプトに「 latex 」と入力するか、あるいは ` C-c C-t C-p ' ( M-x TeX-PDF-mode ) で p...

LaTeX メモ ― AUCTeX 入門(その1)

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AUCTeX  は、 Emacs で LaTeX, TeX, ConTeXt, texinfo などを編集するための統合環境(より正確にいうとメジャーモード)である。非常にパワフルなツールで、それを知っているか知らないかで、LaTeX や TeX の編集の効率にずいぶん差が出てくる。ところが、私の知るところでは、普通のエディタを使って LaTeX コマンドをちまちま入力するような人が、それなりにいるようだ。それではあまりに時間の無駄である。 そこでこのブログで、AUCTeX の簡単な入門を書いてみたい。emacs を使っている人にこんなエントリは不要ではないかとか、そもそもブログに書く内容か?などと疑問に思わないでもないが、このブログでも、LaTeX や emacs に関するエントリはそれなりにアクセスがあるので、需要はあるのではないか。何より私にとっても知識の整理になるので、ご容赦されたい。なお、RefTeX については今後書くことにする。 この入門の目標は、AUCTeX の必要最小限の機能を最小限の知識と労力で使いこなすことである。したがって、たとえば latexmk や SyncTeX についてはここでは触れないが、LaTeX (pLaTeX を想定) は既にインストールされているものとする。また、このエントリで書いた設定を、まとめたりはしない。設定をまとめると、何も考えずにそれを .emacs にコピペして、思い通りに動かないと言うユーザが必ず出てくるからである。以下の内容は、自分の環境や必要に合わせて、修正しながら、使っていただきたい。 本入門の内容については、本エントリ含め、計3回で構成することとした。本エントリの読了後は、次の二回のエントリ( その2 と その3 )を読むことをお勧めしたい。 以下の内容は、GNU Emacs 26.1, AUCTeX 12.2.0, TeX Live 2019 で確認した。サンプルの ' circ.tex ' は、AUCTeX のインストールディレクトリにある。 1. インストール AUCTeX のインストールは、パッケージ(ELPA)によるものがもっとも楽である。もちろん従来のように、` configure ' と ` make install ' によるインストールも可能である。 ...

LaTeX メモ ― AUCTeX における AMS-LaTeX パッケージ等の初期設定

論文などで LaTeX ファイルを編集するときは, emacs+AUCTeX+RefTeX という組合せが最強だと思っている.私はキーボード派なので,マウスを多用する LaTeX 統合環境はどうも趣味に合わない. AUCTeX と RefTeX の使い方については,このブログで簡単なチュートリアルを書いてみたいと思っているが,なかなか時間がない.そこで今回は,ちょっとしたネタを書いてみたい.なおここでは, emacs で既に AUCTeX の設定は完了しているものとする.AUCTeX のインストール,設定,簡単な使い方については, AUCTeX - TeX Wiki  などを参照されたい. このエントリを書く動機は,最近,AUCTeX における AMS-LaTeX パッケージ  (AMS-LaTeX の簡単な説明については, AMS-LaTeX - TeX Wiki  などを参照)について質問があったことである. 質問の意図としては,もともと AUCTeX にはさまざまな (LaTeX) style が, /usr/local/share/emacs/site-lisp/auctex/style などにインストールされている.そこには amsmath.el , graphicx.el などがあり,それを使うにはどのように emacs の初期設定ファイル(以下では .emacs  とする)を設定すればよいか,ということである. 当初はその質問を不審に思い,特殊な設定をしなくても使えているよ?と思ったのだが,確かに AUCTeX の必要最小限の設定では,amsmath パッケージなどにはうまく対応できないようだ.たとえば, \usepackage{amsmath} している LaTeX ファイルに対して,emacs 上の AUCTeX モード (LaTeX-mode) で C-c C-e (insert environment) しても, align などの,amsmath パッケージ特有の環境が補完に出てこない.私は AUCTeX の設定を継ぎ足し継ぎ足しやってきたので,このことに気づかなかった. しかし,amsmath パッケージを用いた LaTeX ファイルを,AUCTeX で編集する場合の初期設定については,ネット...

LaTeX メモ ― geometry パッケージによるページレイアウトの設定

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LaTeX でちょっとした文書を書こうとするとき,ページレイアウトのために,煩雑な設定が必要になることがある.たとえば,LaTeXの article などの標準的なスタイルでは,デフォルトではマージン(余白)が大きめな設定になっている.このマージンを狭めにしようとしても,LaTeXで直感的に設定することは意外に難しい. LaTeX のレイアウトについては, LaTeX/Page Layout - Wikibooks, open books for an open world  のページがまとまっている.その「Page dimensions」のセクションを見れば分かるように,レイアウト設定のために,さまざまな変数が用意されている.しかしながら,それらはあまり直感的な変数とは言えず,実際,余白をちょっと狭めにしたいといった場合ですら,思うように設定することは難しいのである. こんなとき,シンプルかつ直感的にレイアウトを設定できるパッケージとして,geometry がある. geometry パッケージを使うには,プリアンブルのところで以下のように記述すればよい. \usepackage[margin=.8in]{geometry} 明らかなように,上記のコマンドは,geometry パッケージを用いて(上下左右の)マージンを 0.8 インチに設定するというものである.LaTeXのデフォルトの分かりにくいレイアウト設定が嘘のように,geometry では,直感的でシンプルな設定が可能となっていることが分かる. 他の例として,上下のマージンをそれぞれ 2 cm,左右のマージンをそれぞれ 1 cm とし,下マージンの上にフッタを位置させたいといった場合は,以下のようにすればよい. \usepackage[top=2cm, bottom=2cm, left=1cm, right=1cm, includefoot]{geometry} また,上記は以下のように書いてもよい(同じ意味である.いずれか好きなスタイルを選べばよい). \usepackage{geometry} \geometry{top=2cm, bottom=2cm, left=1cm, right=1cm, includefoot} geometry を使うのは,主にマージンを設定したいときではないかと考え...

LaTeX メモ ― 数式モードに移行せずに特殊な記号を使用する方法

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久しぶりに,LaTeX 関係のエントリを書いてみたい.LaTeX メモシリーズで最後に 記事 を書いたのは,2010年10月15日であるから,ほとんど2年ぶりである. まず,このエントリの最初に,有用なドキュメントの紹介をしておきたい. The Comprehensive LaTeX Symbol List (pdfファイル) https://mirrors.ctan.org/info/symbols/comprehensive/symbols-a4.pdf これは,LaTeXで使用できる,5913種類におよぶ記号(パッケージを新たにインストールしないと使えない記号も含む)と,それを出力するためのコマンドをまとめた膨大なリスト(164ページ!)である.LaTeXユーザは,ダウンロードしておいて損はないだろう. 今回のエントリは,上記文書に記載されてない内容を含めて書いてみたい.また,上記文書には面白いトピックがいくつかあるので,それについてもそのうち書いてみたいと思っている. LaTeX の初心者が良くつまづく点として,「 | 」(縦線),「 < 」「 > 」などの記号が,数式モードでしか使えないという点があげられる.すなわち,テキストとして使用するのであっても,たとえば $|$ , $<$ , $>$ などと入力しなければならないのである. (そもそもこの「 $ 」記号のキーボード入力がスムーズにいかず,思考やリズムを中断させてしまう点が大きな問題である) これらの記号をテキストモードで不用意に使用して,dvi ファイルで感嘆符を逆にしたような記号( \textexclamdown と呼ばれるもの,図1参照)が表示され,とまどったことがある方も多いのではないか.また,アスタリスク「 * 」も,数式モードとテキストモードでは,その処理が微妙に異なっている. 以前のエントリ で書いたように,LaTeX は原則として文書の論理的構造を記述するものである.したがって,テキスト中に縦線を使いたい場合,それをわざわざ数式モードにして表示しなければならないというのは,やはり違和感を感じる (このように実装される理由としては,縦線は数式の中ではまわりの部分にあわせて長さが調節されるなど,特殊な処理が必要であるから,ということではないか). いずれにせよ...

LaTeX メモ ― 適切なコマンドを使う

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今回,予定を変えて,LaTeX に関するエントリを書いてみたい. LaTeX には,数式や文章を記述するために便利なコマンドが数多くあるが,適切なコマンドを選択するようにしなければ,見栄えの良い文書を書くことは難しい.そのようなことはもちろんマニュアルや解説書に書いてあるのだが,特に,LaTeX を使い始めの人などが,自分の知っているわずかなコマンドのみを使い,適切なコマンドを使わないといったケースはよく見受けられる.そして,それを立て続けに見せられると,げんなりする(今回のエントリの動機でもある). そこで,非常に基本的ではあるのだが,以下に,典型的な場合における適切なコマンドの例について書いてみたい.知っている人にとっては当たり前の話なのだが,LaTeX を使い慣れた人でも,稀に適切でないようなコマンドを選択するケースもあるため,それなりに有用なのではないかと考えている. 前提 以下では,例によって amsmath パッケージの使用を前提とする. 2重積分で \int\int を使うような状況では, \iint を使う 2重積分の記号として \int を二つ並べるのでは,スペースが空きすぎてしまう.LaTeX の本によっては,スペースを縮めるためのコマンドの \! を併用しているものもあるが,やはり \iint が簡便できれいな出力が得られる.図1を参照. 図1 多重積分用のコマンドとしては,その他 \iiint , \iiiint , \idotsint などがある. アングルブラケット(山かっこ)には,「<」「>」ではなく, \langle , \rangle を使う ベクトルや量子力学におけるブラケットを記すためには,「<」「>」ではなく, \langle , \rangle を使う.「<」「>」はあくまでも不等号である.これについては,図2を参照されたい.どちらが美しい出力になっているか,一目瞭然である. 図2 なお,量子力学におけるブラケットベクトルを記述するためには,braket.sty を使ったほうが簡単である(参照: LaTeX メモ - ディラックの記法と cases 環境 ) 「||」ではなく, \| を使う これについては,図3を参照されたい.やや見づらいが,「||」をコンパイルした出力...

LaTeX メモ - ディスプレイスタイルの数式について

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まとまりがないけれども, \displaystyle に関することについて聞かれたことがあったので,ここにメモしておきたい. \displaystyle と \limits , \nolimits については改めてまとめて書いたほうがいいかもしれない.なお,下記では amsmath パッケージを使っていることを仮定する. 指数部に \sum を使う場合 LaTeX において,行中に書くことを想定したテキストスタイルの数式 ($ ... $ で囲まれた数式) は,いまひとつ見栄えが良くない.そこで,数式を強制的にディスプレイスタイルにする \displaystyle というコマンドがよく使われるが,これを使えば必ず美しい数式が書けるというものでもない. たとえば,変数 x のべき乗について,その指数部分に,和 (summation) 記号 \sum を使う場合を考えてみる.これを普通に LaTeX で書くと,図1のようになる. 図1 私はこれで問題ないと思うのだが,範囲を表す式(「 j = 1 」と「 n 」の部分)を \sum の上下に書けないか,つまり,ディスプレイ数式のように書けないか,という質問があった.この場合,単純には \displaystyle を使って強制的にディスプレイスタイルの数式にすればよいように思える.しかし,これではバランスが良くない(図2参照). 図2 こういうときには, \limits や \nolimits  を使って範囲を表す式を制御するほうがよい(図3). 図3 分数を使う場合 テキストスタイルの数式で,見栄えの良くないものの一つに,分数式( \frac ) がある.典型的な例として,たとえば,( \pmatrix  などを用いて)行列の要素に分数式を使うような状況がある(図4). 図4 そこで,強制的に \displaystyle を使うことが考えられるが,amsmath パッケージでは,特に,ディスプレイスタイルの分数式として, \dfrac というコマンドがある.これは, \displaystyle\frac と同じ働きをする.ディスプレイスタイルにする数式として,他にも \dbinom などがある. しかしながら, \dfrac は,単純に分数式をディスプレイスタイルにするだけな...

LaTeX メモ - 数式の区切り記号の高さ

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このエントリは,「 LaTeX メモ - 数式における「|」 (縦線, vertical bar)の扱い(その2) 」の内容に続くものである. LaTeX では, \left , \right  と区切り記号を組み合わせることにより,(それによって囲まれる)式の高さに合わせてその区切り記号の高さを調節することができる.この機能は非常に便利なのであるが,たとえば長い式を2行に渡って折り返さなければならない場合など,予期するようには \left , \right が機能しないことがある.こうした場合,明示的に区切り記号の高さを \bigl / \bigr , \Bigl / \Bigr , \biggl / \biggr , \Biggl / \Biggr によって調整したほうがよいことがしばしばある.今回のエントリでは,このような,区切り記号の高さを明示的に調整したほうがよい場合について書いてみたい.なお,例によって,以下では amsmath パッケージを使用しているとする. \left とその直前のシンボルの間にスペースが入る場合 LaTeX における数式では,各記号のタイプに応じて,記号の間に自動的にスペースが挿入されることがある.この具体的なメカニズムについては TeXbook の18章や LaTeX Companion の 8.9.1 節などをご覧頂きたいのであるが,このようにして挿入されるスペースが余計な場合がある.たとえば,ある関数 H について,H(1/2) という数式を LaTeX で書くとする. 図1 このとき,図1 の上の式のように, \left を使うと,H と \left の間に \thinmuskip   ( \, ) の分だけスペースが挿入されてしまい,数式の出力が間延びしたものになってしまう.このような場合は,図1 の下の数式のように \biggl / \biggr 等を使い,明示的に区切り記号の高さを指定した方がきれいな出力が得られる. \left , \right が必要以上に区切り記号を高くする場合 \left , \right は,それによって囲まれる数式の最も高いものにあわせて区切り記号を高くするため,それが必要以上に高くなってしまう場合がある.この例として,図2のコードをコンパイルし...

LaTeX メモ - 数式における「|」 (縦線, vertical bar)の扱い(その2)

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このエントリは,以前書いたもの( LaTeX メモ - 数式における「|」 (縦線,vertical bar)の扱い(その1) )の続きである.すぐに書こうと思っていたのに,もう4ヵ月近くもたってしまった. Microsoft の Word のような WYSIWYG エディタとは異なり,LaTeX は,文書の論理的な構造を記述するシステムである( 脚注1 ).つまり,文書の作成者は,その文書の論理構造に注力すべきであって,その文書の書式はクラスファイルやスタイルファイルにまかせるべきと考えられている. ところが,LaTeX を使い始めの人は,見栄えを調整しようとして, \hspace , \vspace , \medskip , \bigskip , \\ などを駆使し,とにかく見た目だけを考えた原稿を書いてくる.論文の原稿などは再利用されることが多いのに,これでは再利用性が損なわれることおびただしい. しかしながら,そうはいっても,文書を美しく整形するためには,文書作成者自身が見栄えを考えなければならないことは多々ある.たとえば,数式における「|」 (縦線,vertical bar)の扱いなどもそうであり,今回はそれについて書いてみたい.なお,いつもと同様,このエントリでは AMS LaTeX パッケージを利用するものとする. 集合表現 以前の記事( LaTeX メモ - 数式における「|」 (縦線,vertical bar)の扱い(その1) )にも書いたが,数式における縦線「|」には多義性があり,適切な文書整形が難しい.その一つの例として,集合の記述がある.たとえば,普通に \{x | P(x) = 0 \}  と書いたとすると,区切りの縦線の両隣のスペースが詰まる結果になる(図1参照). 図1 これを回避するために,いくつかの方法がある.たとえば, 「 \, 」「 \: 」「 \; 」を使って縦線の隣に少しスペースを空ける, \mid を使う, braket.sty の \set , \Set  を使う などである.これらの場合について,図2にフォーマット結果を示す. 図2 いろいろと意見はあるかもしれないが,個人的にはやはり \mid を使ったものが最も簡便で見栄えもいいように思う. ただ, \set を使う必要はほとんどないと思...

LaTeX メモ - 数式における「|」 (縦線,vertical bar)の扱い(その1)

このエントリは,「 LaTeX メモ - 数式に関するいくつかの tips 」の続きに書こうと思っていたものである.あっという間に半年がたってしまった. LaTeX の数式において,扱いが面倒でまた見づらいものに,「|」 (縦線,vertical bar)がある.今回のエントリでは,これについて書いてみたい.なお,ここで書く内容の多くは,AMS-LaTeX のドキュメント( User's Guide for the amsmath package (PDF) )によるものであり,そちらもあわせて参照されたい.また,ブログのエントリとしては長くなりそうなので,二つのエントリに分割することにした. 絶対値,ノルムの書き方について 数式においては,縦線は様々な意味で用いられる.たとえば,数論においては,「a|b」は「aはbを割り切る」という関係を表す.一方で,関数「f: A → B」の定義域を A' ⊆ A に限定にした関数「f: A' → B」は,「f|A'」などと表現されることがある.さらに,「|z|」などの絶対値表現,集合の要素の性質を現すときの表現(例:「{x | P(x)}」),等々,縦線は多くの意味を持つ.  そこで,LaTeX の数式で縦線が使われていると,それがどういう意味で用いられているのか,一見しただけでは分かりにくいことが多い.たとえば,一つの数式で絶対値の項が複数使われていると,どれが右の区切りの縦線なのか,左の区切りの縦線なのか,非常に分かりづらく,また修正しづらい. 例: $|a+b|c+d|e+f|$ さらに,縦線が使われた数式をきれいに出力するためには,縦線の書式をその意味に応じて整えなければならないことがある. これらが,LaTeX における縦線の扱いを困難にしている理由である. そこで,LaTeX の数式においては,縦線あるいは二重縦線「||」(コマンド「 \| 」)をそのまま使わず,代わりに,その意味が分かるようなコマンドを使うことが推奨される.このため,amsmath パッケージでは, \lvert , \rvert , \lVert , \rVert , \mid  などのコマンドが存在する( \mid については後述).これらを用いて,たとえば絶対値やノルムの表現のためには,以下のようなコマンド...

LaTeX メモ - 数式に関するいくつかの tips

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私が他人と共同で文書や論文を書くときは,LaTeX を使うことが多い(近年はどうしても MS-Word を使わなければならない状況が増えたが,それでもできる限り LaTeX を使うようにしている).その際,LaTeX に不慣れな人は,あまり適切でない LaTeX 文書を書くことがよくある.そこでこのエントリでは,特に数式に限定して,(散漫ではあるが) いくつか tips を書いてみたい.本ブログでは,LaTeX 関連エントリには比較的多くアクセスがあるので,こういうものにも需要はあるだろう.また,もし誤り等あればご指摘ください. 基本: AMS-LaTeX を使う まず,何はともあれ AMS-LaTeX (amsmath パッケージ) を使うことが重要である.一般的に言って,このパッケージを使うことにより,様々な数式を容易かつ適切に表現できるようになる. 通常,LaTeX がインストールされているシステムでは,AMS-LaTeX は同時にインストールされていると思われる.AMS-LaTeX については,以下の webページを参照されたい: AMS-LaTeX ウェブページ   User's Guide for the amsmath package (PDF) AMS theorem package user's guide (PDF) Short Math Guide for LaTeX (PDF) 特に,上記「Short Math Guide for LaTeX」は,amsmath パッケージについて要点を押さえつつ簡潔にまとめられており,17ページと枚数も少ないので,印刷してレファレンスとして手元においておくとよいと思う. なお,以下では,プリアンブルで \usepackage{amsmath} としていると仮定する. 行列表現には,array 環境よりも pmatrix, bmatrix 等の環境を使う 古くから LaTeX を使っている人は,行列を書くために array 環境を使うことがある.たとえば,以下のような記述である. \sigma_y = \left(   \begin{array}{cc}     0 & -i \\     i & 0   \end{array...

LaTeX メモ - ディラックの記法と cases 環境

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先日の記事 ( 上極限の記法 (LaTeX) ) に引き続き,LaTeX の使い方についてメモしておきたい. ディラックの記法 量子力学で,量子の状態や内積を表現するために便利なディラックの記法(ブラケット記法, Bra-ket_notation ) というものがある.LaTeX でこの記法を使おうとするとき,ケットベクトルやブラベクトルはそれぞれ \left|\varphi\right\rangle , \left\langle\psi\right| と簡単に書けるのだが,ブラケット(内積)がうまくいかなかった.たとえば, \left\langle\varphi|\frac{\psi}{a}\right\rangle などとやっても,中の「|」の高さが調節されない(図1参照). 図1 「|」の高さを式全体の高さに合わせるのは難しく,いろいろと試行錯誤していたのだが,最近 braket.sty というスタイルファイルがあることを知った (「bracket」ではなく「braket」であることに注意されたい).私のシステムでは, $TEXMF/tex/latex/misc/braket.sty にインストールされていた. このスタイルファイルでは, \bra{ } , \ket{ } , \braket{ } , \Bra{ } , \Ket{ }  などのコマンドが用意されているが,特に嬉しいのが \Braket{ } である.これを使って \Braket{\varphi|\frac{\psi}{a}} とすれば,きれいに出力される(図2参照).何より, \left , \right などを使うよりも簡単に書けることが素晴しい.また, \Braket{\varphi|\frac{A}{a}|\psi} などもうまくいく(図3参照).なお,これらのコマンドを使う際には \usepackage{braket} しておくのを忘れずに. 図2 図3 cases 環境 ある数式が条件に応じて異なる値をとることを表現したいことがよくある.このために私はLaTeXの数式モードで array 環境を使い,たとえば以下のように書いていた. \begin{equation}   \chi_E(\omega) = \left\{    ...