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イグアノドンの唄 ――大人のための童話―― (中谷宇吉郎)

twitter の代替サービスとして半年ほど前に話題になったものとして,「マストドン」 ( https://mstdn.jp/ 等) がある.このマストドンは,少なくとも日本の一部では,未だにそれなりに支持されているようだ.そこで当時書こうと思ったのが,今回の記事である.例によって,遅きに失しているけれども. 中谷宇吉郎の随筆に,「イグアノドンの唄」というものがある.これを読むと私はいつも寺田寅彦(中谷の師)のまさに名随筆である「団栗」を思い出して,そちらの方が傑作だとは思うのだけれども,それはさすがに酷な比較であって,この「イグアノドンの唄」も掛け値なく傑作であると言っていいだろう. 中谷宇吉郎一家は,第二次世界大戦終戦前後のころ,北海道の羊蹄(ようてい)山麓に疎開していた.そこは,有島武郎の「カインの末裔」の土地であり,中谷一家は,過酷な自然と,食糧不足に苦しめられていた. そんな状況でも,子供たちは育っていく.中谷は,子供たちにせがまれて,20年も前にロンドンで得たコナン・ドイルのSF小説「失われた世界」を読み聞かせる.コナン・ドイルはもちろんあの,シャーロック・ホームズの作家である.中谷は,この小説を,子供たちに以下のように紹介する. この本は,英国のチャレンジャー教授という先生が,南米のアマゾン河のずっと上流のところ,もちろん人間など一度も行ったことのない秘密の世界なんだが,そこへ探検に行ったときの報告なんだ.古代の恐ろしい竜だの,怪獣だのがそこに本当にいたんだよ.いつか雑誌で見たでしょう.ディノザウルス(恐竜)なんていう竜の中には,このおうちの三倍くらいもある大怪物もいたんだが,それがのそっのそっと歩いていてね.イグアノドンなんていうのもいたんだよ. 子供たちは,この説明に驚喜する. まだ小学校へ行っている下の男の子などは,もうそれだけで,すっかり上気してしまった.頬を赤くしながら,眼を輝かせて,「本当? 本当?」と,覗きこむ. 戦後物資不足の地獄のようなカインの末裔の土地で,子供たちこそが希望であった. そして,下の男の子はこのイグアノドンにあまりに感銘を受けたために,以下のような唄まで作ってしまう. イグアノドンの背中に  ゴリラが乗ってった 乗ってった ゴリラの背中に  お猿が乗ってった 乗ってった お猿の背中に  鼠が乗ってった 乗ってった 鼠