人間の限界 (ゲーテ)

Amazon があまりに便利なので,本を買うのは Amazon にすることが多くなった.しかしそれでも,本屋には,Amazon などのインターネットショップには替えがたい魅力がある.自分の興味がない分野も含めて,さまざまな分野の新しい本・雑誌が並んだ本棚,意匠をこらした本の装丁,本の独特の重み,質感,香り,活字を読みながら一枚一枚ページをめくるときの喜び,これらはやはり本屋でしか味わえないものである.本屋に入るときは,たとえそれが行きつけの本屋であっても,わくわくする.


また例によって話はそれたが,今日本屋に行って一つの発見があったので,それについて書いてみたい.自分の無知を晒すようで,恥ずかしい話でもあるのだが.


その本屋でふと手に取った「ゲーテ詩集」(新潮文庫)に,「人間性の限界」という詩があったのである.気になったので原題を見てみると,「Grenzen der Menschheit」という.ドイツ語は分からないので,AltaVista の Babel Fish Translation を利用して英語に翻訳してみると,「Borders of mankind」となる.つまり,逐語訳だと「人類(あるいは人間)の境界」となるだろうか.調べてみると,この詩の題は,「人間性の限界」あるいは「人間の限界」と訳すのが一般的のようだ.


以前,霜山徳爾先生の書籍「人間の限界」について記事を書いた(2006年3月5日のエントリ).古今東西の文学・哲学に造詣の深い先生のことであるから,もちろん,この詩を念頭に置いた上でこの本を書かれたに違いない.なお,上記エントリにも書いたのだが,霜山先生には「人間の詩と真実」という名著もあり,これはゲーテの「詩と真実」に基づいている.そのことは「人間の詩と真実」の中に書いているのだが,先生の「人間の限界」の中には,書名の由来は書かれていなかったように思う.見逃しているだけかもしれないが.


いずれにせよ,「人間の限界」のような思い入れのある本の書名の由来を今まで知らなかったとは,自分の無知が恥ずかしくなるばかりであるが,それでもその由来を知ることができたのは望外の喜びである.


ここで,ゲーテの詩「人間性の限界」(高橋健二訳)の一部を紹介しておきたい.


・・・
神々と人間とを
分かつものは何ぞ?
神々の前にては
波さまざまに姿かえて流るれど,
流るるは永劫の大河.
我ら人間は
波にもたげられては
またのみ込まれ,
沈みはて行く.


一つの小さき輪
我らの命を限る.
世々かけて人の族(うから),
絶ゆることなく
その存在のはてなき
鎖につながる.


この詩は,それ自体で心を揺さぶるものがある.さらに,霜山先生の「人間の限界」の書名の由来になったであろうことを考えると,また先生の考えも推し量られるような気もして,さらなる感銘を受けてしまう.本屋を訪れることは,程度の差こそあれこのような知見や喜びを私に与えてくれるものであり,かけがえのないものである.




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