永遠の抱擁

National Geographicは,私がいつも楽しみに読んでいるサイトの一つである.そこで,以下のようなエントリがあり,思うところもあったので,このブログに書いてみたい.


Ancient Cemetery Found; Brings "Green Sahara" to Life
http://news.nationalgeographic.com/news/2008/08/080814-sereno-sahara-missions.html


上記記事によれば,古生物学者 Paul Sereno の研究チームが,恐竜の化石を探している最中に,サハラ砂漠で最大で最古の墓地を発見したという.上記の写真は,その中の一つに墓にあった,女性とその子供二人の骨格である.この三人が亡くなったのは,5300年以上前であるとみられる.また,この骨格の下には花粉の残存物があったことから,花を敷き詰めた上に埋葬されたと考えられている.研究チームは,この墓の遺体を「Stone Age Embrace」(石器時代の抱擁)と呼んでいるということだ.


上記エントリを読んで,以前 National Geographic には以下のような記事があったのを思い出した.こちらの方が有名かもしれない.海外ではブログ等でいろいろと言及されていたので.


Photo in the News: Skeleton "Valentines" Won't Be Parted
http://news.nationalgeographic.com/news/2007/02/070213-bones-photo.html


この,互いに抱き合って埋まっていた二つの骨格は,およそ5000年前に亡くなった二人の若者のものであるということくらいしか知られていない.しかしながら,発掘されたのが2007年のバレンタインデーの直前であり,また,発掘された場所のマントヴァは,ロミオとジュリエットの舞台となったヴェローナのほど近くであることから,これらの骨格は恋人同士のものであると想像されて,世界中にロマンティックな感動を引き起こした.これらの二つの遺体は, 「Eternal Embrace」(永遠の抱擁)と呼ばれることになった.


いずれの写真を見ても,まずは死ということについて考えさせられるのだが,さらに二つの写真に共通して強く感じるのは,これらの人々の間に生前あったであろう強く深いつながりについてである.いずれの遺体も,抱き合うような形で(おそらく他の人によって)埋葬されたということに,それを強く感じる.それは,ありきたりであるけれども,愛という言葉でしか表せないのかもしれない.もちろん,今となっては想像するしかできないのだけれども.


そして,その深いつながりのまま彼等は亡くなり埋葬され,5000年以上の間ずっとそのままの形でいた.その時の長さに深く感銘を受けざるを得ない.そして,自らも含めた人間の生死,愛ということについて,思いをはせてしまう.何より,これらの遺体ほど,人間の生,愛,死というものが表裏一体であるということを思い起こさせてくるものはないのではないだろうか.


もちろん,こうした感情は,単なる感傷にすぎないと笑われてしまう類いのものなのかもしれない.それはそうだろう.今となっては,当時の事情など分かるわけもないし.


ただ,少なくとも,研究のためとはいえ,こうして衆人環視のもとに置かれるのは彼らの本意ではないだろう.なるべく早くまたもとのように埋めてあげて,その抱き合ったまま,永遠に静かに置いておいてほしいと思う.




追記(2015年2月19日)


以下のような記事がありました.


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150213-00000014-jij_afp-sctch

より:


【AFP=時事】ギリシャの考古学者チームは、抱き合った姿勢で埋葬されたとみられる先史時代の男女の人骨を発見した。ギリシャ文化省が12日、発表した。このような状態の埋葬人骨は極めて珍しいという。


 同省の声明によると、人骨が発見されたのは、ペロポネソス(Peloponnese)半島沿岸部ディロス(Diros)の洞窟遺跡で、同地は紀元前6000年から人が居住していたことが知られているという。






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