Guy Steele Jr. (ガイ・スティール Jr.)について

最近,天才に関する記事と,ハッカーに関する記事を読み,Guy Steele Jr. (ガイ・スティール Jr.) のことを思った.Guy Steele  については,ちょっとしたことではあるがいつも思い出すことがあるので,散漫ではあるけれども,それについてここに書いてみたいと思う.


Guy Steele Jr. はアメリカの計算機科学者で,Scheme の研究開発や,「Common Lisp: the Language」などの著作で知られている.その Guy Steele と天才(あるいは,コンピュータサイエンスにおける才能)ということでまず思い出すのは,東大の萩谷先生の以下の記事である.


http://nicosia.is.s.u-tokyo.ac.jp/pub/essay/hagiya/h/tensai


萩谷先生らしく,Knuth まで一刀両断する痛快なエッセイである.なお,上記の記事も含めて,萩谷先生のウェブページからその他のエッセイも読むことができ,これらも非常に興味深いので,ぜひご覧いただければと思う.


このように高く評価される Guy Steele であるが,私が Guy Steele についていつも思い出すのはそういうことではなく,彼が執筆した Common Lisp the language (第二版は CMUのサイトで読むことができる)の謝辞にある,二つの短い文章である.


Common Lisp the language 第一版 (1984) の謝辞の最後は,以下のように締めくくられている. 


Most of the writing of this book took place between midnight and 5 A.M. I am grateful to Barbara, Julia, and Peter for putting up with it, and for their love. 

(拙訳)

この本を執筆したのは,大半が深夜から朝の5時にかけてであった.それに対する忍耐とその愛について,バーバラ,ジュリア,ピーターに感謝する.


この文章が,1989年の第二版では,以下のようになっている.


Most of the writing of this book took place between 10 P.M. and 3 A.M. (I'm not as young as I used to be). I am grateful to Barbara, Julia, Peter, and Matthew for putting up with it, and for their love. 

(拙訳)

この本を執筆したのは,大半が夜10時から朝の3時にかけてであった(私はかつてほど若くはない).それに対する忍耐とその愛について,バーバラ,ジュリア,ピーター,マシューに感謝する.


才能のある研究者が,家族の寝静まった深夜に研究に打ち込み,こつこつと本を執筆する.Common Lisp the Language という1100ページに近い本がそうして完成した.以前,大日本国語辞典を執筆した松井簡治について書いた(「ブログを始めるにあたって - 継続は力」)が,学問や研究というものの本来はそういうものであるような気がするのだ.そして,自分もまたそうした真摯な姿勢を持ちたいと思うのである.


また,読者は,第一版と第二版では執筆時間がずれているのはもちろん,その間に家族が一人増えていることに気づくだろう.子供の名前が Julia, Peter, Matthew ということから,Guy Steele はクリスチャンなのかもしれない(彼は Boston Latin School (ボストンラテン語学校) 出身なので,それなりの家庭出身なのではないか).第一版と第二版のこうした違いから,一つの幸せな家族と,満ち足りた人生がほの見え,私自身も何となく幸せな気分になってしまう.


そうしたわけで,Guy Steele Jr. というと,上記の文章をいつも思い出してしまうのである.




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