帰られなくなるという恐怖

短い夏休みもすぐに終わり,それから山のような雑用であっという間に月末になった.RSSリーダーも未読記事であふれかえり,読む暇もないので,未読のままクリアするということを続けている.ただそれではいかにも残念なので,一つだけその中からニュース記事を紹介したい.8月の半ばごろ,以下のようなニュースがあった:


韓国男性、34年ぶりに両親捜し当て再会 11歳時、遊び半分で列車に乗って…
http://sankei.jp.msn.com/world/korea/100812/kor1008121208001-n1.htm


12日付の韓国紙、朝鮮日報は、韓国で11歳の時に迷子になり両親と離れ離れになった男性(45)が、34年ぶりに父親(75)と母親(65)を捜し当て、感激の再会を果たしたと報じた。


 同紙によると、男性はソウルに住んでいた1976年、遊び半分でソウル駅から列車に乗り韓国南西部の全羅北道に向かった。到着先で警察官に助けを求めたが家には戻れず、同道内の夜間中学を卒業し、魚の卸売りなどをしながら暮らした。


 男性は、自分の子供が成長するにつれて「両親に会いたい」という気持ちが募り、子供時代の記憶をたどりながら、通っていたソウル市内の小学校などを訪ね歩いた。



Missing for 25 years after getting on wrong bus
http://www.reuters.com/article/idUSBKK15581020070206


上記ニュースによれば,当時50歳くらいの女性が,マレーシアからタイ南部行きのバスに乗るつもりだったのだが間違えてしまい,その後不運が重なって,タイ北部のチェンマイまで行ってしまったという.彼女はタイ語が話せなかったため,帰るに帰れず,そこのホームレスの施設で20年以上も過ごしてしまった.その後,とある偶然から,25年後にしてようやく家族と再会できたとのことである.


これらのニュースには,いろいろな見方ができるだろうが,ある種の恐ろしさも感じてしまう.外国旅行をしているとき,言葉も通じない乗客とともに,バスや電車に乗った時に感じる不安とも似ている.この電車はどこに行くのだろう,目的地に本当に着くのだろうか,もし帰れなくなったら,..などといった不安は,海外に行ったことがあるならば,皆一度は感じるのではないだろうか.


そしてまた,残された家族にしてみれば,古い言葉で言えば,神隠しにあったようなものだろう.柳田国男が遠野物語などで繰り返し語った神隠しが,現代でも起きているのである.


このような,帰られなくなるという話が恐ろしいのは,それは究極的には,自分が自分でなくなるということにつながるからではないだろうか.そしてそれは,安部公房の一つのテーマでもあった. 私は,安部公房の愛読者が親戚にいたことから,学生時代にその作品をほとんど読んだ.そして,この夏休みに,久しぶりにその作品を読み返してみた.それについては,いつかこのブログで書いてみたい.


実は,この夏休みには,安部公房と,もう一人の作品を読み返していた.これについては,8月中に書くつもりだったができなかったので,なるべく早めにエントリを書いてみたい.



最後に,最近見つけた安部公房のインタビューをここに載せておきたい.これを見たのが,今回のエントリを書く動機になった.





追記(2014年8月31日)


ちょっと古いですが,2014年8月9日に以下のような記事があったので,メモしておきます.


http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140809/k10013677531000.html より:


2004年に発生したインド洋大津波で流され、行方不明になっていたインドネシアの当時4歳の女の子が、10年ぶりに家族と再会を果たし、地元メディアは「奇跡だ」と大きく伝えています。


この女の子は、死者・行方不明者22万人以上を出した2004年のインド洋大津波で行方不明になっていた、インドネシアのラウダトゥル・ジャナさん(14)です。

地元メディアによりますと、当時4歳のジャナさんは、被害が最も大きかったスマトラ島のアチェ州に住み、大津波で流されたものの、木の板に乗って助かり、その後、およそ130キロ離れた島に漂着したところを漁師に発見され、漁師の家庭で育てられていたということです。

ことし6月に偶然、親族がジャナさんを見かけ、母親に顔がよく似ていたことから、育ての親に確認したところ津波による孤児であることが分かり、連絡を受けたジャナさんの家族が確認したということです。




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