LaTeX メモ ― AUCTeX 入門(その3)

(その1)から始まった本ブログの AUCTeX 入門トリロジーも、これが最後のエントリである。このエントリでは、AUCTeX の preview 機能をテーマにしたい。


と言っても、(その2)までの設定が終われば AUCTeX から外部ビューワを起動できるようになるし、そもそも特に設定することなく、doc-view を使えば emacs で ps, dvi, pdf などを見ることができる(LibreOffice をインストールしていれば、Office ファイルを読むこともできるようだ)。したがって、AUCTeX のプレビュー機能の必要性はそれほど高くないかもしれない。


しかしながら、AUCTeX のプレビューは有用であるし、私も好きな機能でもある。そこで、今回はもう改めて書くほどの内容はないが、エントリにしてみたい。なお、(その1)と同様、本エントリの内容は GNU Emacs 26.1, AUCTeX 12.2.0, TeX Live 2019 で試した。さらに、以下では、(その1)(その2)で述べた設定は行っているものと仮定する。



プレビュー

LaTeX は、Word のような WYSIWYG なツールと異なり、現在の編集の効果を把握しづらい。しかし、ソースとなる tex ファイルから、複数のファイルやツールを用いて最終的な pdf を作成し、編集結果を確認するのというのも手間と時間がかかる。そこで便利なのが、AUCTeX の preview 機能である。


AUCTeX の preview については、論より証拠で以下のスクリーンショットを見れば分かりやすいだろう。



このスクリーンショットは、以下のファイル:


sample.tex


を、AUCTeX で C-c C-p C-d (M-x preview-document) することによって得られたものである。ただし、画像ファイル `Ghostscript_Tiger.eps' は配布しないので、各自適当なファイルで試されたい。この画像自体は有名なので、それを入手して eps にするのも簡単である。


そして、preview されたドキュメントを元に戻すには、C-c C-p C-c C-d (M-x preview-clearout-document) とすればよい。すなわち、C-c C-p C-d (ドキュメント全体のプレビュー開始)と C-c C-p C-c C-d (ドキュメント全体のプレビュー終了)のペアを知っておけば、AUCTeX のプレビュー機能は最低限使えるようになる。


さらに、このようなキーの列を覚えるのが面倒な場合は、emacs のメニューバーから「Preview」のメニューをマウスでクリックし、必要なコマンドを選択すればよい。Emacs でキーボードを使わずにマウスを使うと堕落した気分になるが、もともと堕落している私には余裕である。そもそも C-c C-p C-c C-d などと、4個のキーの列を覚える程の気力は私にはない。


またもう一点、プリアンブル(preamble)のキャッシュについて書いておきたい。(LaTeX の)プリアンブルとは、tex ファイルで、\begin{document} より前の部分のことである。AUCTeX の preview は、デフォルトで、プリアンブルを所定の形式でキャッシュする。これにより、プレビューの効率を向上させることができる。


そこでデフォルトでは、その LaTeX ソースを最初に preview しようとしたとき、プリアンブルをキャッシュするかどうか聞いてくる。プリアンブルをキャッシュするかどうかは、C-c C-p C-f (M-x preview-cache-preamble) / C-c C-p C-c C-f (M-x preview-cache-preamble-off) というコマンドの組でトグルすることができる。またこの挙動は変数 preview-auto-cache-preamble によってカスタマイズもできる。



この節の最後に、主要な preview コマンドをまとめておく:


  • C-c C-p C-d … ドキュメント全体をプレビュー
  • C-c C-p C-p … ポイントの位置でプレビュー
  • C-c C-p C-e … LaTeX の environment(\begin{...}\end{...} で囲まれた部分)をプレビュー
  • C-c C-p C-s … section をプレビュー


  • C-c C-p C-c C-d … ドキュメント全体のプレビューを取り除く
  • C-c C-p C-c C-p … ポイントの位置でのプレビューを取り除く
  • C-c C-p C-c C-s … section のプレビューを取り除く


その他、リージョン、バッファの preview を、作成・除去することができる。また、プレビューを取り除くときは、そのコンポーネントを含む適当なプレビュー除去コマンドを使ってもよい。覚えるのが面倒なときは、C-c C-p C-c C-d とすればプレビューを終了できる。



設定

AUCTeX の preview の基本的な設定は、(その1)(その2)で述べた設定と同様てある。その上で、もし dvipng(プログラム)がインストールされてる環境ならば、変数 preview-image-type'dvipng と設定することを推奨したい。その場合、以下のようにセットすればよい:


(setq preview-image-type 'dvipng)


dvipng(プログラム)は、大抵の LaTeX ディストリビューションにはあるはずである。そして、preview-image-type の値を 'dvipng と設定できれば、デフォルト(dvipsghostscript が用いられる) よりも preview が高速化される。



より高度な設定としては、スタイルファイル preview.sty を用いることが考えられる。しかしながら、preview.sty は、簡単な場合はともかく、それを極めるのは LaTeX や AUCTeX の深い知識がないと難しいのでないか。


preview.sty の基本的なケースとしては、以下のオプションの組合せ:


\usepackage[displaymath,textmath,showlabels,sections,graphics,floats]{preview}


を試してみるとよい。さらに、上記において active というオプションを設定すれば、プレビューの結果を pdf にできる(ただし、プレビューされた各コンテンツはそれぞれ一つのページに出力される)。それ以外のオプションやその組み合わせについては、使いこなすことが簡単でないこともある。



その他

このエントリの最後に、落ち穂拾いのようなことを書いてみたい。


  • 今は LaTeX で eps の必然性はあまり高くはないが、AUCTeX preview するときは、dvips を使うため、画像ファイルは eps にするのが無難と思われる。


  • 個人的な考えだが、AUCTeX の preview については、上記の知識があれば十分ではないか。もちろん、より高度な設定も存在するが、 AUCTeX の preview はいわば癖もあり、極めるのは困難である。



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