アートバイブル

海外に行くとき,その地の教会や寺院を訪れるのが好きである.それらの建物の中は静謐でひんやりとした,宗教的な空間になっている.そこで現地の人が祈りを捧げているところを見ると,罰当たりな自分でも敬虔な気持ちになる.また,そういうところで宗教画や彫刻を見るのも好きである.ただ,その背景となる知識がないので,それらを十分に楽しんだり理解したりすることができず,残念に思っていた.海外の美術館に行ったときも,同じような気持ちになることが多かった.


それが動機の一つとなって,聖書を読み始めたわけであるが(聖書を読む),そのような私にとって,「アートバイブル」(何 恭上・町田 俊之著,日本聖書協会)は,おあつらえ向きの本である.


本書は,聖書の本文と,それに関連する名画を一つにまとめたものである.全528ページ(A5変形サイズ)に,146作家の325作品が掲載されており,聖書関連の名画はほとんど網羅されているのではないか.すべての絵画はカラーで収録されており,時を忘れて見入ってしまう.また,聖書のそれぞれの場面で,複数の画家の同一テーマの絵画が掲載されているので,それらを見比べるのも興味深い.本書においては,聖書を読むときに関連する絵画を見る,逆に,絵画を見ながら,その背景となる聖書の本文を読む,といった読み方ができるだろう.また,一般的に言って西洋絵画集は高価なものが多いので,この内容で2800円というのは大変リーズナブルではなかろうか.


しかしながら,この本だけで聖書をすべて読むことはできない.また,絵画の解説があるわけではないので,西洋美術の学芸書として読むこともできない.したがって,それら双方の中間分野における入門書として最も適しているもしれない.そして,この本は,多くの人にとって,聖書を読んだり西洋美術を学んだりするための,これ以上ないよいきっかけとなり得るように思う.プレゼントとしてもいいかもしれない.


この本と同様の趣旨で,聖書関連の彫刻や建築を扱った本をぜひ出版してほしいものだ.とにかく,折に触れて読み返したくなるような本である.




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