LaTeX メモ - 数式に関するいくつかの tips

私が他人と共同で文書や論文を書くときは,LaTeX を使うことが多い(近年はどうしても MS-Word を使わなければならない状況が増えたが,それでもできる限り LaTeX を使うようにしている).その際,LaTeX に不慣れな人は,あまり適切でない LaTeX 文書を書くことがよくある.そこでこのエントリでは,特に数式に限定して,(散漫ではあるが) いくつか tips を書いてみたい.本ブログでは,LaTeX 関連エントリには比較的多くアクセスがあるので,こういうものにも需要はあるだろう.また,もし誤り等あればご指摘ください.


基本: AMS-LaTeX を使う


まず,何はともあれ AMS-LaTeX (amsmath パッケージ) を使うことが重要である.一般的に言って,このパッケージを使うことにより,様々な数式を容易かつ適切に表現できるようになる.


通常,LaTeX がインストールされているシステムでは,AMS-LaTeX は同時にインストールされていると思われる.AMS-LaTeX については,以下の webページを参照されたい:



特に,上記「Short Math Guide for LaTeX」は,amsmath パッケージについて要点を押さえつつ簡潔にまとめられており,17ページと枚数も少ないので,印刷してレファレンスとして手元においておくとよいと思う.


なお,以下では,プリアンブルで\usepackage{amsmath}としていると仮定する.


行列表現には,array 環境よりも pmatrix, bmatrix 等の環境を使う


古くから LaTeX を使っている人は,行列を書くために array 環境を使うことがある.たとえば,以下のような記述である.


\sigma_y = \left(
  \begin{array}{cc}
    0 & -i \\
    i & 0
  \end{array}\right)


これで問題はないのであるが,amsmath パッケージには pmatrix, bmatrix, Bmatrix, vmatrix, Vmatrix などの環境が用意されており,そちらを使ったほうが簡便で,きれいな出力が得られる.たとえば,上記のような場合は,pmatrix を使って書けばよい:


\sigma_y =
  \begin{pmatrix}
    0 & -i \\
    i & 0
  \end{pmatrix}


array 環境を使った場合を図1に,pmatrix 環境を使った場合を図2に示す.pmatrix 環境のほうが簡単で,スペーシングも適切になることに注意されたい.ただし,カラム数が10を超えるような行列の場合(たまに必要になる)や,行列要素に左右のアラインメントが必要になる場合は array 環境を使わざるを得ない.しかしながら,通常の場合は pmatrix などの環境で十分である.


図1(array を使った場合)



図2(pmatrixを使った場合)


以前のエントリ (LaTeX メモ - ディラックの記法と cases 環境) に,array 環境を使わずに cases 環境を使ったほうがよいということを書いたが,上記と同様の状況であり,あわせて参照されたい.


数式中にテキストを書く際には,\text コマンドを使う


数式中 (数式モードにおいて) にテキストを書きたい場合はよくある.そのような場合,LaTeX に不慣れな人は,{\rm text} や,\textrm{text} などといったコマンドを使うことが多い.また,古い LaTeX の参考書では,この場合 \mbox{text} などという書き方を勧めることがある.もちろんそれで構わないのであるが,amsmath パッケージには \text コマンドが用意されており,できればそちらを使うべきである.このコマンドが便利なのは,\text コマンドの中でさらに数式を使うことができるという点である.使用例については,本ブログの以前のエントリ (LaTeX メモ - ディラックの記法と cases 環境) を参照されたい.そのエントリにあるように,数式モードの中で例えば \text{if $\omega \in E$,} などといった使い方が可能である.


\ldots, \cdots のような省略符号の使い方について


この項については,あまり賛同が得られないかもしれない.あくまでも,私の感覚ではということで了解していただきたい.


他人の LaTeX ドキュメントを見ると,ドット省略符号を使う場合は何でも \cdots を使っていたり,\cdots\ldots を統一的に使っていなかったりすることがある.数式上では,あくまでも私の感覚では(省略符号の使い方について,私が教わったところでは),


  • \ldots … カンマを使う場合の省略.例: $1, 2, \ldots, n$
  • \cdots… 加算,乗算等,2項演算子を使う場合の省略.例: $A_1 A_2 \cdots A_n$.(ただし,行列要素の省略等にも用いられるので一概には言えない)


がより適切な使い方であるように思う.AMS-LaTeX ではさらに細分化した以下のコマンドが利用可能である: 


  • \dotsc … カンマの省略の場合
  • \dotsb … 2項演算子の省略の場合
  • \dotsm … 乗算の場合
  • \dotsi … 積分の省略の場合
  • \dotso … その他の場合.


ただし,デフォルトでは,\dotsc \ldots,それ以外は \cdots と全く同じである(スタイルファイルごとに違う記号を使えるように細分化している).ここまでする必要はないにせよ,少なくとも一つの文書では \ldots\cdots の使い分けは統一するべきである.


\rightarrow よりも \to を使う


この項も趣味の問題ではある.数式中には,右矢印 (→) を使う場合がたいへん多い.これは,もちろん \rightarrow を使えばいいのであるが,まったく同じ意味の記号 \to を使った方が,意味的にも視覚的にもわかりやすい場合が多いように思う.例: $n \to \infty$



以上,知っている人にとっては全く基本的な内容であるが,LaTeX に不慣れな人がよく陥りやすい所であるので,あえてまとめてみた.


この手の話題については書き始めるときりがないのであるが,もう一点,LaTeX の数式における「|」の使い方については書いておきたい.ただ,本エントリも少し長くなってしまったので,エントリを改めることにしたい.



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