LaTeX メモ - 数式における「|」 (縦線,vertical bar)の扱い(その1)

このエントリは,「LaTeX メモ - 数式に関するいくつかの tips」の続きに書こうと思っていたものである.あっという間に半年がたってしまった.


LaTeX の数式において,扱いが面倒でまた見づらいものに,「|」 (縦線,vertical bar)がある.今回のエントリでは,これについて書いてみたい.なお,ここで書く内容の多くは,AMS-LaTeX のドキュメント(User's Guide for the amsmath package (PDF))によるものであり,そちらもあわせて参照されたい.また,ブログのエントリとしては長くなりそうなので,二つのエントリに分割することにした.


絶対値,ノルムの書き方について


数式においては,縦線は様々な意味で用いられる.たとえば,数論においては,「a|b」は「aはbを割り切る」という関係を表す.一方で,関数「f: A → B」の定義域を A' ⊆ A に限定にした関数「f: A' → B」は,「f|A'」などと表現されることがある.さらに,「|z|」などの絶対値表現,集合の要素の性質を現すときの表現(例:「{x | P(x)}」),等々,縦線は多くの意味を持つ. 


そこで,LaTeX の数式で縦線が使われていると,それがどういう意味で用いられているのか,一見しただけでは分かりにくいことが多い.たとえば,一つの数式で絶対値の項が複数使われていると,どれが右の区切りの縦線なのか,左の区切りの縦線なのか,非常に分かりづらく,また修正しづらい.

例: $|a+b|c+d|e+f|$


さらに,縦線が使われた数式をきれいに出力するためには,縦線の書式をその意味に応じて整えなければならないことがある.


これらが,LaTeX における縦線の扱いを困難にしている理由である.


そこで,LaTeX の数式においては,縦線あるいは二重縦線「||」(コマンド「\|」)をそのまま使わず,代わりに,その意味が分かるようなコマンドを使うことが推奨される.このため,amsmath パッケージでは,\lvert, \rvert, \lVert, \rVert, \mid などのコマンドが存在する(\mid については後述).これらを用いて,たとえば絶対値やノルムの表現のためには,以下のようなコマンドをプリアンブルに定義することが望ましい.


\providecommand{\abs}[1]{\lvert#1\rvert}
\providecommand{\norm}[1]{\lVert#1\rVert}


そして,絶対値を表すときには,$|z|$ の代わりに,$\abs{z}$ などと書くようにすればよい.上記の例でも,$\abs{a+b\abs{c+d}e+f}$ とするか$\abs{a+b}c+d\abs{e+f}$ とするかで著者の意図は明らかになる.


もちろん,上記コマンドの定義においては,\left, \right を併用して,\left\lvert#1\right\rvert などとしてもよい.上記の例においても,式の意味を明確にするためにもそうすべきであると考えられる.



その2 に続く)



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